こんにちは。行政書士法人IMSの松井です。

今月、米国ジョージア州で韓国の自動車メーカーの電気自動車(EV)用バッテリー工場で、大規模な摘発が行われたれたことは日本でも大きく報道されました。日本企業の中には、取り急ぎ、出張者の渡米を一時停止にしたという話も聞きました。製造業を中心に多くの企業からお問い合わせをいただいておりますので、本日はこの問題について少し掘り下げてみたいと思います。

何があった?

2025年9月4日に、南部ジョージア州エラベルで建設中の現代自動車とLGエナジーソリューションの合弁工場が4日、米当局による大規模な摘発を受け、475人もの労働者が不法就労で逮捕されました。そのうち、約300人が韓国人だったようですが、日本人も3人含まれていたと報道されています。米国国土安全保障省による同一拠点での摘発としては過去最大規模だったそうです。ジョージア州最大の経済開発プロジェクトの製造拠点が狙われたほか、手枷足枷された人たちのかなりショッキングな映像が流れたため、米国内外で大きな反響を呼びました。

移民税関捜査局(ICE)は、「アメリカへの投資を希望する全ての企業をアメリカは心から歓迎するが、企業が外国人労働者を必要とする場合は、合法的に招かねばならない」とコメントしています。また、トランプ大統領は、「拘束された人たちは不法移民であり、ICEは自分たちの職務を果たしただけだ」と述べました。

拘束された人々は、フロリダ州との州境近くにあるジョージア州フォークストンにあるICE施設に収容されましたが、その劣悪な環境も話題になりました。グーグルマップで確認したところ、工場から収容施設まで車で2時間は掛かるようで、ICEの本気度が伺えます。収容期間は1週間に及び、拘束したままICEのバスでアトランタまで移送したいICEと今後の渡米に影響が出ないよう釈放の上、会社側が用意したバスに乗せたい韓国側とのせめぎあいの結果、結局、11日に釈放され、アトランタまで会社が用意したバスで移動し、日本人3人を含むほとんどの労働者が韓国向けチャーター機に同日搭乗し、米国を離れました。

何が問題だったのか?

報道によれば、摘発のあった工場で働いていた多くの人は、ビザ免除プログラムであるESTAあるいは短期商用ビザのB-1ビザで渡米していた模様です。Eビザ等の就労ビザを有していた人は、逮捕を免れたという報道もありました。B-1ビザは、米国内で報酬を得なければ、米国での就労ができるビザと勘違いされがちですが、ESTAもBビザも米国内でできる活動に差異はなく、就労はできません。それは、短期間であっても同じです。ESTAやB-1ビザで問題ない活動は、ミーティング、契約交渉、視察等です。工場内にいたとしても視察なら問題ありませんが、逮捕されてしまった労働者の服装を鑑みるに現場で作業していた方がほとんどのように見受けられました。今回は工場の建設中ということで、様々な役割を持つエンジニアが現地に派遣されていたと推測できますが、大人数の技術者が必要なため、ビザの手当を怠ってしまったのかもしれません。

どうすれば良かったのか?~リスク回避のためにできること~

では、同様な事態を防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?いくつか考えられる対策があります。どのようなビザを取得していれば、逮捕・拘束を免れることができたのでしょうか?

1.就労ビザ

【H-1Bビザ】

米国側はこのようなエンジニアはH-1Bビザを取得すべきだったという報道を見かけました。H-1Bビザは専門職用の就労ビザで、米国のテック企業で働く多くのインド人や中国人がこのビザを持っています。確かにこのビザを持っていれば、就労は可能です。ただし、このH-1Bビザの取得は容易ではありません。政府系等に雇用されるのでない限り、年1回あるコンピュータによる無作為抽選で当選しなければ、審査に進むこともできません。工場建設のための短期間就労が必要なエンジニアがこのビザを取得することは現実的でないでしょう。

【E-2ビザ】

E-2ビザは投資ビザです。工場建設のために巨額な投資がなされているので、E-2ビザを取得するというのはある程度、現実的な路線です。ただし、この工場は韓国投資なので、韓国人以外は使用できません。また、出資者である現代自動車やLGエナジーソリューションの従業員でなければ、使用できません。今回、工場で働いていた多くの労働者は協力会社や下請けだったという報道もありますので、そういった場合には使用できません。

E-tdy

Eビザを使用できる企業であれば、E-tdyを利用する方法もあります。これは短期間のプロジェクト等での米国派遣に最適なものです。もちろん、エンジニアも利用できます。本国の企業に籍を置きながら、給与も本国から支払われる形で問題ありません。

【Lビザ】

いわゆる企業内転勤用のビザです。本国の親会社から米国の子会社への派遣、あるいは本国の子会社から米国の親会社への派遣でも使用できる就労ビザです。こちらのビザもエンジニアの派遣に良く利用されていると思います。

2.B-1 in lieu of H-1B

上記就労ビザのいずれも該当しない場合、考えられるのはB-1 in lieu of H-1Bです。これはH-1Bの代わりのB-1ビザです。カテゴリーとしてはB-1ビザですが、ビザ面のAnnotation(備考欄)に“B-1 in lieu of H-1B”と付記されます。これにより、B-1ではあるものの、短期間、米国内での就労活動が可能となります。ただし、米国源泉の報酬を得ることはできません。また、原則、大卒以上の学歴が必要となり、専攻内容と米国での職務内容に関連性が求められます。学歴は職歴でカバーすることも可能なので、長い経験で専門性のあるエンジニアであれば、取得できる可能性が高いです。

3.Industrial WorkerとしてのB-1ビザ

  米国外で製造された機械や装置等を米国の工場等にインストールしたり、そのメンテナンスをしたりする場合、その機械や装置を製造したエンジニアが現地に赴く必要があるケースが多いと思います。そういったケースに備え、B-1でもエンジニアを米国に派遣し、米国内で作業できるという規定があります。ただし、その機械や装置の売買契約書にエンジニア派遣について、明記されていることが必要です。この場合にもビザ面のAnnotationに規則の条項について付記されます(つまり、入国審査官等が見れば、分かるようになっています。)。

今回のケースでは、上記2あるいは3のいずれかのB-1ビザを事前に取得すべきだったと考えます。打ち合わせと称してB-1ビザを取得し、工場で作業するのは不可です。今後、渡米なさるご出張者の方やご出張者を派遣する企業におかれては、米国内での活動内容がESTAやビザで本当に許容されているのか、違法性はないのかという点を良くご検討いただき、同様なことが起きないようご準備いただければと思います。

なお、本ブログは現時点での情報であり、最新情報についてはお客様の責任において、政府公式サイト等でご確認ください。

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