こんにちは。行政書士法人IMSの稲田です。
今回は「不法残留」について理解を深めておきたいと思います。
「不法残留」と聞くと何か悪質なケースを想像しますが、たとえうっかりして1日過ぎてしまったような場合でも、在留期間が定められている外国人の方が、その期間を超えて日本に滞在している場合は「不法残留」として扱われます。例えば、在留カードをお持ちの方が、在留資格の更新手続きを忘れてしまった場合です。また、在留資格の更新申請や変更申請を行うと2か月の特例期間が付きますが、特例期間の終了日までに結果を受け取りに行かなかった場合も在留期間を経過したものとして「不法残留」となります。
不法残留は「退去強制」になる?
不法残留であることが分かった場合は、基本的には「退去強制」の対象となります。退去強制の手続きは、以下のような流れで行われます。
<退去強制手続き>
違反発覚
→違反調査(入国警備官による)
→収容
→違反審査(入国審査官による)
→口頭審理(特別審理官による)
→裁決(法務大臣又は地方出入国在留管理局長による)
→送還
「退去強制」は、「収容」という身柄の拘束もあり得る非常に厳しい措置であり、最終的にはいわゆる“強制送還”と呼ばれる結果となり、そうなった場合は、退去した日から5年は「上陸拒否期間」として日本に入国することができなくなります。
「出国命令」という手続きもある
なお、「不法残留」の場合でも、一定の要件を満たす場合は「出国命令」の対象となり、「退去強制」よりも簡易な手続きで出国することができます。
<出国命令の対象となる要件>
- 速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと
- 不法在留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 入国後窃盗罪等の所定の罪により懲役等に処せられていないこと
- これまでに退去強制や、出国命令により出国したことがないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
<出国命令手続き>
違反発覚
→違反調査(入国警備官による)
→出国命令に係る審査(入国審査官による書面審査)
→出国命令書交付(主任審査官による)
→出国
出国命令制度は、平成16年(2004年)の入管法改正により設けられた制度で、違反調査により出国命令対象者に該当すると認めるに足りる相当の理由がある場合には、収容を行うことなく入国審査官に引き継ぎ、入国審査官が出国命令対象者であると認定した場合には、主任審査官が15日を超えない範囲内で出国期限を決定した上で、出国命令書を交付し、出国命令を受けた者は当該期限内に自主的に出国することができるという制度です。
なお、出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年となります。
うっかりの不法在留には要注意!
先日、特例期間終了日が日曜日だったために翌日の月曜日に、出入国在留管理局に結果を受取りに行ったところ、不法在留のため、退去強制か出国命令のどちらかを選択するように言われたという方についてのご相談がありました。その方は、在留期間更新申請中に、みなし再入国許可により一時出国しており、日曜日に日本に戻ってきたため、月曜日に出入国在留管理局に行けば新しい在留カードが受け取れると思っていたようです。
「申請」の手続きについては、「行政機関の休日に関する法律」で、申請期間の末日が行政機関の休日に当たる場合は、行政機関の休日の翌日がその期限とみなされると定められていますが、在留カードの受け取りは「申請」ではありませんし、その前に、入管から結果受け取り期限の通知ハガキも届いていたはずです。日本に戻って来る時期が遅くなった理由はどうあれ、不法在留になってしまったことは事実です。
また、この場合、新しい在留カードを受け取るために行った訳ですから、考えようによっては「速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと」に該当しないとも言えます。入管の方でも状況を鑑みての対応だったのかと思いますが、出国命令の選択が許されただけでも良かったのかも知れません。
それにしても、期限を1日過ぎただけでも厳しい措置が行われるということを改めて認識した出来事でした。在留手続については、正しいルールを理解しているだけでなく、申請や結果の受取り日については、絶対に忘れないようにすること、そして、不測の事態に備えて、余裕をもったスケジュールで行うことが必要です。うっかり「不法残留」になって取返しのつかない事態になることを未然に防ぐため、注意喚起としてこのブログが少しでもお役立に立てば幸いです。
参考:出入国管理実務六法 令和6年版 (日本加除出版)
出入国在留管理庁パンフレット(2022年度)