こんにちは。行政書士法人IMSの松井です。
2025年9月はアメリカビザ関連で大きな動きが2つありました。一つは前回ご紹介したジョージア州に所在する韓国系工場での大規模摘発、もう一つはH-1Bビザに関する大統領令です。本日は、後者について、その影響とともに考えてみます。

10万ドルの申請料!?

9月19日、“RESTRICTION ON ENTRY OF CERTAIN NONIMMIGRANT WORKERS(特定の非移民労働者に対する入国制限)”という大統領令が突如発出されました。9月21日午前0時1分(米東部時間)に発効したこの大統領令によれば、H-1Bビザ申請について、原則10万ドル(約1,500万円)の追加申請料を支払わなければ、入国は禁止されるとされています(ただし、延長がない限り、発効から12か月後に失効します。)。当初の発表では、新規申請のみなのか、更新申請者も対象なのか、あるいは、既にH-1Bビザを保有しているものの米国外に出ている人も対象になるのか曖昧な点が多く、H-1Bビザホルダーを多く抱える米国テック系企業では、H-1Bビザホルダーの従業員に米国外への渡航を禁止したり、既に米国外にいる者にすぐに米国に戻るよう促したりと現場で大混乱が起こったと報道されています。また、この大統領令が出た直後のフライトで米国外に渡航しようとしていた人が飛行機から降りたいと言い出し、フライトが何時間も遅れてしまったといったこともあったようです。

H-1Bビザは専門職用の就労ビザで、エンジニア、医療、金融等の専門的な職務に就く方が雇用主の協力を得て、取得できるビザです。日本人の方で取得されていらっしゃる方もおられますが、国籍で言うと、インド人が圧倒的に多く、全体の7割を占めています。この大統領令が発出された時にインドに一時帰国なさっていたH-1Bビザホルダーは、雇用主からすぐに米国に戻るように言われたものの、すぐに出発しても9月21日のミッドナイトの期限までには現実的に米国に戻れないというケースもあったようです。今回の大統領令発表から発効まであまりに時間的余裕がなかったほか、また、トランプ政権側と行政(USCIS、移民局)側で説明に食い違いがあったこともあり、何が正解で確実な情報なのか分からないといった状態が続きました。
現在、USCISのウェブサイトでは10万ドルの支払いは、新規申請のみと記載されておりますが、何が「新規」にあたるのかは説明がなく、今後も注視していく必要があります。

選考方法の変更や審査の厳格化

これまではコンピュータによる無作為抽選でしたが、今後、賃金水準に基づく選考方式に変更されることになりそうです。賃金が多いほど、当選確率が高くなります。また、専門職の要件が厳格化される可能性があります。この背景には、専門職と言いながら、安い労働力で米国人の雇用が奪われているという政権側の主張があり、この是正のために費用面および取得要件を厳しくすることにより、H-1Bビザのハードルを上げたいという思惑があるようです。

B-1 in lieu of H-1Bへの影響


B-1 in lieu of H-1Bは、H-1Bビザ相当の仕事を米国で短期間のみ行いたい場合、H-1B の要件を満たせば、Bビザのカテゴリーで米国での就労が認められるものです(ただし、米国源泉の報酬を受け取ることはできません。)。Bビザではありますが、ビザ面のAnnotation(備考欄)に“B-1 in lieu of H”と記載されます。H-1BビザのようにUSCISへのPetition 申請が不要で、米国大使館(領事館)へのビザ申請のみで可ということで、非常に便利なため、弊社でも多くの日本企業からのご出張者に対するサポートを行ってきました。当初、今回の大統領令はこのB-1 in lieu of H-1Bへの影響はないものと考えておりましたが、実は今回の大統領令発出後のビザ面接では、B-1 in lieu of H-1Bは全件、「保留」扱いになっているようです。追加手続きが必要なため、保留ですと言われた方もいらっしゃいますが、H-1B自体の審査基準が明確に定まるまではB-1 in lieu of H-1B申請も保留とされる可能性があります。このビザカテゴリーしか選択肢がない場合には、様子を見るしかないのですが、場合によってはIndustrial Worker向けのBビザやE-tdy等別の手段を取ることもできるかもしれませんので、お困りの場合には、ぜひ弊社までご相談ください。

トランプ政権は発足当初、不法移民の摘発や強制送還に注力していたようですが、現在は雇用ベースのビザ制度について大規模な改革を進めているように見えます。弊社でも今後の動きには注視していきたいと思います。

なお、本ブログは現時点での情報であり、最新情報についてはお客様の責任において、政府公式サイト等でご確認ください。

Image Description