皆さまこんにちは。IMSの下山です。
あっという間に10月も終わろうとしています。今年もあと2か月と思うと、1年は本当にあっという間だと感じます。
さて本日のブログは、過去のブログや弊社YouTubeでも再三取り上げている入管内での人権軽視の問題について、日経新聞の記事を引用し考えてみたいと思います。
本件の概要ですが、原告は29歳のクルド人男性。訴状や準備書面によると、男性は2012年2月に来日し、母国で迫害される恐れがあることを理由に難民認定を申請したそうです。茨城県牛久市の東日本入国管理センターに収容中であった男性は2019年4月に下腹部に痛みを感じ、同センターに勤務する医師の診察を受けたところ、医師からは外部の泌尿器科の受診をするようセンター職員に指示があったそうです。
ところが、受診できたのは約半年後の9月。男性からの仮放免の申請は放置され、許可されたのは解放を求めるハンガーストライキ後の同年9月5日だったそうです。ようやく外部の専門医を受診し、腫瘍の摘出手術を受け、病理学的検査によって精巣がんと判明。訴訟の途中でリンパ節への転移も判明したそうです。
記事によると、国側は「(同センターの)医師の指示は救急搬送や緊急の外部診療を前提とするものではなかった」と説明。外部の医療機関を受診する場合、収容者の逃走や一般患者への迷惑行為を防ぐために3人の職員が必要で、人手の確保が難しかったなどと主張していました。
訴訟記録によると、同センターの医師が男性の外部受診を指示した19年5月には、新たに外部診療を指示されたケースが約40件あったそうで、受診まで平均60.1日かかっていたそうです。
裁判所は訴訟手続きの中で①国は男性に対し、合理的期間内に外部診療を受ける機会を与えるべきだった②外部診療を受けられなかったことで腫瘍のリンパ節への転移を防げなかった可能性がある、との「暫定的な心証」を提示。これを受け、国側は一定の責任を認めざるをえないと判断したとみられています。その結果、国が解決金として1060万円を支払う内容で和解が成立。収容施設での医療提供を巡り、国が和解に応じるのは異例とみられています。
入管施設内での医療体制を巡っては、同センターでは2014年にカメルーン国籍の男性(当時43)が死亡しており、また、弊社YouTubeでも何度も取り上げていますが、名古屋出入国在留管理局でも、収容中だったスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が2021年3月に死亡しています。この件でもウィシュマさんは看守に何度も体調不良を訴え、点滴や外部医療機関での受診を求めていましたが叶うことはなく、命を落としています。
収容中の外国人においても人権が尊重されるべきことは当たり前な国際的ルールであるにも関わらず、日本の入管施設内では度々このような痛ましい事件が起きています。
今回の事件でも国が責任を認め、和解に応じたことは一定の評価ができますが、記事によると和解の条件が「原告側が第三者に口外しないこと」だそうで、不透明さが残っているのも事実です。
入管業務に携わる者として、この問題については引き続き注視していきたいと思います。