こんにちは。行政書士法人IMSの松井です。
いつまでたっても衣替えができない10月でしたが、来週半ばぐらいからはようやく寒くなりそうです。昨年は綺麗に咲いていたコスモスが全く咲かなかったり、秋の果物がイマイチ美味しくなかったりと暑かった夏の影響がかなり出ているように感じます。
さて、今回は先日ニュースになっていた日本の某メガバンクの新たな採用コースについて、ビザ面から考えてみたいと思います。
2025年4月入社の新卒社員を対象とするこの新設採用コースでは、高い英語力のある人材に入社後、最短2年目でニューヨークあるいはロンドンの勤務を確約するものだそうです。将来、海外勤務を希望する学生には魅力的な制度かと思います。英国ビザは弊社の専門ではありませんので、ここでは米国ビザについて検討いたします。
駐在員向けビザ
米国の駐在員が最もよく利用するビザはLビザあるいはEビザです。それぞれの特徴は下記のとおりです。
Lビザ:いわゆる企業内転勤ビザ。直近3年のうち、継続して1年以上の米国外でのグループ企業での勤務が必須条件。
Eビザ:貿易(E-1)および投資(E-2)ビザの2種類がある。日米間の直接貿易が継続的にあること(E-1)、あるいは日本から米国へのリスクのある積極的な投資実績があること(E-2)で取得できる。貿易や投資の主体は企業で問題ない。その企業の従業員であれば、ビザを取得できるため、駐在員用のビザとして利用されている。
銀行という業態を鑑みますと、Eビザではなく、Lビザの可能性が高いかと思われます。記事には「査証(ビザ)を取得するために1年間は国内勤務が必要」と記載されておりましたので、上記Lビザの条件にも合致します。ここで問題となるのが、申請者(赴任者)自身のバックグランドです。Lビザの申請カテゴリーには、役員職(Executive)・管理職(Manager)あるいは専門職(Specialist)があります。新卒2年目で役員やマネージャーは普通ないでしょうから、恐らく専門職での申請狙いということになると思います。専門職は職業上の専門職(弁護士、会計士、エンジニア等)もあれば、その企業にとっての専門性を有する人材ということでも申請可能です。問題は果たして入社2年目の若手社員に専門性があると言えるのかという点です。修士号あるいは博士号取得済みで理系であれば、専門性を打ち出しやすいかもしれませんが、学部卒ではかなり難しいのではないでしょうか。この点はEビザであっても同様です。
専門職ビザ
新卒でも取得可能な就労ビザとして、H-1Bというものがあります。ただし、こちらは原則コンピュータによる無作為抽選で当選しませんと審査に進むことすらできません。年間枠がある上、審査期間も長く掛かりますので、このビザを利用することは現実的ではありません。このH-1Bビザは米国内で学位を取得した学生が、学生ビザのまま働ける期間(OPT)を利用して、その間にH-1Bビザを申請するというパターンが多く、日本の企業から派遣される場合にはほとんど利用されません。
研修ビザ
残る手段としてはJビザがあります。Jビザは国際交流訪問ビザとも言われるものです。このビザには、トレイニー、インターン、リサーチスカラー、交換留学生等15種類ものカテゴリーがありますが、企業からの派遣で最もよく利用されるものはトレイニー(研修生)というカテゴリーになります。
トレイニーの主な条件は下記のとおりです。
・米国でしか学べないことを学ぶこと
・18歳以上で健康であること
・研修期間中は、米国市民や社会と積極的に接触し、相互理解を深め、文化交流に努めること
・研修期間終了後は、必ず帰国し、研修の成果を役立てること(つまり、研修修了直後のLビザやEビザ派遣は難しい。)
・研修分野での実務経験が高校卒業後5年以上あること(ただし、米国以外の大学で関連分野を履修している場合には大卒後、1年の実務経験で可。米国の大学を卒業している場合には、帰国後5年経過している必要あり)
・研修期間中、国務省の要件を満たす医療保険に加入すること
・受入企業により定められた研修計画に従って実務研修を行うこと
研修期間は最長1年半で、基本的には研修修了後に帰国する必要があります。また、米国大卒の場合、入社後2年目では派遣できない ので、米国大を卒業した英語力の高い人材には使用できないというデメリットもあります。なぜ米国大卒がすぐにJビザを利用できないかと言うと、これはあくまで国際交流のためのビザだからです。米国大に在籍していれば、国際交流は必然的にしているでしょうから、卒業後すぐには使えないということになります。
この新設採用コースでは、どのビザを念頭に置かれているのか不明ですが、米国は若手でキャリアが浅い方を派遣するのが難しい国であることはお分かりいただけたでしょうか。
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